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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
それが才次をいっそう苛立たせ、怒りに駆りたてたのだろう、護岸工事が終りに近くなった或る日、がまんをきらした彼は栄二に挑みかかった。栄二が石垣に組む石を運んでいたときで、それは角を欠いた五貫めほどのみかげ石だったが、栄二は刺子の布切を当てた肩に担ぎ、両手で押えてあるいていると、うしろから才次が来て、両手で背中を突きとばした。栄二は前へのめり、肩から落ちる石を抱えるようなかたちで、転倒した。
「野郎どうした」と才次がどなりつけた、「そんなちっぽけな石も満足に担げねえのか、怠けると承知しねえぞ」
栄二は振り向いて才次を見あげ、それからゆっくりと立ちあがった。まだねぼけている者が起きあがるような、極めて緩慢な動作だったが、起きあがって、手に付いた泥をはたくかとみえた瞬間、拳にした右手の肱をうしろへひき、それを力いっぱい才次の顔へ叩き込んだ。その打撃はすばやく、的確に才次の鼻柱に当り、才次がよろめくところを、栄二は身を跼め、相手の胸へ烈しい頭突きをくれた。才次は仰向けに倒れ、片手で鼻を押えてなにか喚きながら、躯をくの字なりにして起きあがろうとした。その顔を栄二は踏みつけ、避けようとするところを蹴あげた。