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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「暫くでした」おすえは俯向いたままでそっと頭をさげた、「お達者でしたか」

「こんなところへ来ちゃあいけない」と栄二が低い声で云った、「おれはもうおまえの知っている人間じゃあない。二度と来るな」

「さぶちゃんから手紙がきて、それでようやくここがわかったんです」おすえは栄二の言葉を聞きながして云った、「――五月のはじめにさぶちゃんは脚気になって、葛西のうちへ養生に帰ってるんですって、すぐに治ると思ったらこんどは腹を病んで、まだ暫くは出あるけそうもないということなんです」

それで栄二のところへもゆけないから、これこれの品を揃えて届けてもらいたい、と書いて来たそうである。おすえは話しながら包みをあけて、肌着や下帯や、くだもの菓子の折などをそこへ並べたが、初めて顔をあげて栄二をみつめながら、あんまりよ栄さん、と囁き声で叫んだ。

「どうして」とおすえは吃った、「――ここにいるっていうこと、どうしてひと言も知らせてくれなかったの」

「おれはお上の不浄な繩にかかった躯だ」

「栄さんの罪じゃないでしょ」

栄二は顔をひき緊めた、「――なんだって」

「さぶちゃんが詳しく書いてきたわ」