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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

おすえは眼を伏せたが、蒼くなった顔は硬ばり、躯のふるえは止らなかった。

「しかし綿文じゃあおれの本当の気持は知らねえし、そんな妙な噂が弘まっては迷惑だろう、おれを店へ近よせねえようにと、なにか手を打つ気になったとしてもふしぎはねえ」と栄二は云った、「もちろんこれは推量だ、これが証拠というものはなに一つねえが、それじゃあほかになにがある、おれの道具袋へ古金襴の切を入れて、無実の罪をおれにきせずにはいられないような人間や、事情がほかにあるだろうか、――あれからずっと考えてみた、けれどもそんな人間は誰ひとりいねえし、そうしなくてはならねえような事情はどう勘ぐっても思い当らねえ、――おれが二度めに綿文をたずねたのも、そこをはっきりつきとめたいと思ったからだ」

「いまでも」おすえはつまずいてのめるような口ぶりできいた、「栄さんはいまでもそれをつきとめるつもりなの」

栄二はゆっくりと首を振った、「だめだ、へたに突つけばこんどは本当のぬすっとにされる、相手は綿文の主人、こっちは親方から暇を出されたけちな職人だ、奉行所で親切に事情をきかれても、これこれと話せなかったのはそのためだし、いまとなっては事実をつきとめる手だてもありゃあしねえ、――だがな、おらあ貸しだけは取立てるぜ」