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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

彼は聞えてくる声で見当をつけ、手に触れる板や柱を取って投げた。幾人かが栄二にならって残骸を取りのけにかかったが、建っているときには柱へ板を打ちつけたばかりの、ごく雑な小屋のようにしかみえなかったのに、いざ片づけるとなると、その柱や板の量の多いのと重いことにおどろいた。

「おい集まれ」という赤鬼の声が聞えた、「病人を移すんだ、役所のほうへ」

栄二は太い角柱にとりついていた。戸口の一本らしい。万吉が丸太を持って来て、こいつを梃子にしようと云った。丸太の下へかう物がみ当らないので、万吉はその一端を角柱の下へ突込み、一端へ自分の肩を入れてりきんだ。どこかでまた家が倒れたのだろう、木の裂ける音や鈍い地響きや、人の悲鳴などが聞えた。

「だめだ」と万吉が云った、「この柱あびくともしねえぜ」

「こいつをどけなくっちゃあどうにもならねえ」と栄二が云い返した、「もうひとふんばりやってみろ、さあ」

角柱は意外に重く、そのうえ壊れた板や梁木などがかぶさっているため、よういに動くけしきがなかった。そこへ二人ばかり走り寄って、万吉といっしょに丸太を担ぎあげた。

「みんな集まれ」という松田権蔵の叫び声が聞えた、「こっちだ、役所の前だぞ」