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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

烈風は水しぶきをともなっていて、みんなの顔や手へ痛いほど叩きつけた。

「雨じゃねえ、こいつは海の水だ」と誰かがどなった、「みろよ、塩っかれえぞ」

角柱が動き、丸太の梃子にとりついていた三人が転びそうになった。栄二は角柱を押しやり、その下の板きれを掻きのけながら、大丈夫か、どっちだ、と呼びかけた。

「ここだ、早くしてくれ」と板きれの下から返辞が聞えた、「早く頼む、溺れそうだ」

そう云われて気がつくと、水はもう膝まできていた。いそげ、と万吉がどなり、四人は夢中で板きれや桟の折れなどを取りのけた。赤鬼の松田が水をはねとばしながらやって来て、なにをしているくそ野郎、集まれというのが聞えないのか、と喚きたてた。さっきからよほど喚いたりどなりつけたりしたのだろう、その声はすっかりしゃがれて、風邪をひいたでろれん左衛門のように聞えた。

「人がつぶされてるんだ」と栄二がどなり返した、「手伝ってくれ」

「よりによってこんなときにつぶされるなんて」と松田は毒づいた、「よっぽどうすのろのかぼちゃ野郎のでくの坊だな、誰だ」

毒づきながらも進んで手伝い、どうやら男を救い出した。