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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

島ぬけ牢やぶりにみられるぞと、栄二は叫び続け、それが人足たちの口から口へ伝わった。

「なにが島ぬけだ」と一人が呼びかけた、「お奉行さまの口からじかに、めし放しだと云われたじゃねえか」

「それを信じさせることができるか」と栄二はその男を指さして叫んだ、「めし放しは町奉行の許しがあったわけじゃあねえ、ここのお奉行さまの一存だけだし、臨機のめし放しだという証拠もねえ、この大あらしで向う河岸には警護の人数が出ているだろう、そこへみんなでぞろぞろいってみろ、この仕着の水玉模様を見ただけで、寄場人足の島ぬけだとみられるだろう、そうは思わねえか」

「そんならどうすりゃあいいんだ」とべつの男がきき返した、「ここにいたって溺れ死ぬばかりじゃねえか、どうせ死ぬんなら」

「死ぬたあ限らねえ」とこぶの清七がどなり返した、「お奉行さまも役人衆も残るという、役所のまわりの地盤が高いことは、みんなも現に見た筈だ、みんなの力を合わせりゃあ、この島ひとつ守れねえこたあねえぞ」

「それでも逃げてえ者は逃げろ」と栄二が云った、「だが順番をやぶるな、病人と女が先だ」

八の六

掛矢を持った清七の威しと、栄二の巧みな言葉の威しとで、われ勝ちの騒ぎはしずまり、病人、女たちに続いて、三艘の伝馬船に避難者が乗り移り、どうやら事なく大川へ漕ぎ出してゆき、あとに七十余人