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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「その話は、おすえちゃんから聞いてもらうほうがいいんだ、おれは口べただから」

「おめえはじれってえ男だな」

「そうじゃねえんだよ」さぶはまだ嗚咽で喉を鳴らしながら、眼を拭いて云った、「――ほんとはなんでもねえんだ、ただうっかり饒舌って、栄ちゃんの気を悪くさせるといけねえと思ったからなんだ」

栄二は黙ってあとの言葉を待った。

「葛西は九月いっぱいでひきあげた」とさぶは額を撫でながら云った、「なにしろ兄嫁がまた赤んぼを産んだもんだから」

「それは手紙で読んだよ」

「そうだっけか」さぶは済まなそうに肩をちぢめた、「それで、――小舟町へは帰れねえし、おら、とにかくおすえちゃんと相談してみた、そうして、なにしろ栄ちゃんが出て来たときのことがあるから、いろいろ話したうえ、うちを借りようってことになったんだ」

栄二の顔をうかがったが、なにも云いそうもないので、さぶは吃りながら続けた。

「そうすると、おすえちゃんのうちの近くに、裏長屋だけれど空いているうちがあって、店賃も安いもんだからそれを借りてね」

「じゃあ下谷金杉だな」

さぶは頷いた、「ひとまずそこへおちついたんだが、栄ちゃんが出て来たときに困るからってね、横丁でもいいから、せめて裏長屋でねえところをって」