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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「それが簡単じゃないのよ」おのぶは口ごもってから云った、「すみよしってお店は、小さいけれど酒と肴で売ってたでしょ、亡くなった親方は板前としてもかなり腕がよかったのよ、それが女手ばかりになったら、客足がおちるにきまってるわ」

「じれってえな」と栄二が遮った、「そんなことを聞いたっておれにゃあどうにもなりゃあしねえ、もっと肝心な話があるんだろう」

「せっかちねえ」おのぶはにらんだ、「たまに来て話すんだもの、ちっとはおちついて聞いてくれたっていいでしょ、しとのこと頭からおちつけよなんて云っといて、自分こそ少しおちつくほうがいいんだわ」

「よしよし、そんなら好きなだけ饒舌れよ、のぶ公の気の強いのにゃあかなわねえや」

おのぶは急にきつい眼つきになった、「それ、どういうこと、さぶちゃんのこと云ってるんじゃないでしょうね」

「話がそれるぜ」

「でもついでだからはっきりさせるわ」とおのぶは開き直った、「あたしさぶちゃんに云ったわ、どうしてもあんたといろ恋をする気持にはなれない、お客としてならいつでもお相手をするけれど、それ以上のことは考えないでちょうだいって」

「世間にはずいぶん気の強い女もいるようだが、男に面と向って、それも惚れぬいている相手にそうずけずけと云えるような女は、おそらく二人とはいねえだろうな」