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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
ぶしゅう負けるなよ、と云うこぶの清七の声もした。与平や万吉や金太の顔も見えた。知っている顔ばかりでなく、知らない者までが石のあいだから覗き、しっかりしろとか、死ぬんじゃねえぞとか、もうすぐ助けてやるぞとか、声をからして呼びかけるのであった。おれは大丈夫だ、けれども胸が潰れちまう、この石をどけてくれ、栄二は苦しさのあまり身もだえをした。
「栄さん」誰かが肩をゆすった、「栄さん、うなされてるんだよ、さあ、栄さん」
栄二は深い泥沼の底から浮きあがるような、もどかしい苦悶を感じながら眼をさました。部屋の中は日光で明るく、自分は夜具の中で仰向きに寝てい、すぐ眼の前に心配そうな与平の顔があった。
「眼がさめたかね、大丈夫かね」
「ああ」栄二は咳をして答えた、「起こしてくれて助かったよ、いやな夢をみていたんだ」
「手拭はここだよ」
「済まない」与平の取ってくれた手拭で、栄二は額の汗を拭き、両腋の下や胸を拭いた、「ぐっしょりだ」
「もう一枚出そうかね」
栄二は首を振り、手拭をたたんで枕の脇に置いた。時刻をきくと午後二時ごろだという。では半刻ちかくも眠ったわけで、与平は疲れたからだと云った。