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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
十二の三
義一は松田をからかっているのだ。そして、そうすることで、自分をみんなに誇示しようとしているのである。このおれ自身がそうであったように、――実際にはそんなことにはなんの意味もなく、却って自分を道化にしているにすぎないのに。栄二がそう思っているとき、義一はおひゃらかし笑いをしながら、集めた花札を持って立ってゆき、松田の手に渡した。
「冗談だよ、松田さん」と義一は云った、「ここじゃあ冗談ひとつ云えないのかい」
「きさまにはこのおれがばか者にみえるらしいな」松田は荒い呼吸をしながら云った、「元締役はここを牢ではないと云われた、慥かにそのとおりだが、寄場をあまくみると後悔するぞ」
「わかりましたよ」と云って義一はうしろにいるりゅうへ振り向いた、「――いまのお差配の仰しゃったことを覚えておけよ、りゅう、ここは伝馬町よりおっかねえところらしいからな、おとなしくしようぜ」
「あのこと怒ってるのかい、あにき」とりゅうは面白そうに云った、「それとも、怯えちゃってるんじゃねえかな」
松田は大股に出てゆき、手荒に引戸を閉めた。
花札は松田権蔵が持っていった。それはみんなが見ていたことだ。