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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

ように簡単なもんじゃあねえぜ」

「じゃあどうすればいい、あにいは黙って見ていろってえのかい」

「おちつけよ」と栄二はやわらかに囁いた、「去年の大あらしだって三日と続きゃあしなかった、どんな大火事だって一年も燃え続いたというためしはねえだろう、――よせやい」栄二はそこで急に、てれたように顔をそむけた、「おれにこんな年寄りじみたことを云わせるなんて、おめえひでえやつだぞ」

二月中旬になった或る夜、栄二が独りで南の海辺へ出ていると、こぶの清七が捜しに来た。五、六日まえから、栄二は毎晩そこへ来て、棒を投げる稽古をしていた。薪小屋から長さ三尺ばかりの、割ってない丸薪を五本ばかり持ちだし、海辺に立っている杭に向って投げるのである。厠へゆくと云って出るから、おそらく与平も気づかないだろうが、彼は雨の日を除いて毎晩その稽古を続けた。

――そんな必要はないかもしれない、だがその必要のあるときがくるかもしれない。

義一やりゅうや昌吉らと、いつかは腕力で対抗することになるだろう。松田権蔵と義一がやりあうのを見た夜、栄二は心の中でそう思い、それをやるのは自分の責任だというふうに感じた。