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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

ではいざというときにどうするか、りゅうは匕首を持っているし、義一も喧嘩には強いようだ。昌吉が加勢するかどうかはわからないが、こっちは片足が不自由なうえに、使えるのは撞木杖しかないし、すばやく動けない躯では、それを投げるよりほかに手はなかった。もちろん自分のところにも、たたんだ蒲団のあいだに丸薪を三本、手ごろなのを選んで隠してあるが、海辺へは五本持って来て、およそ十二、三尺の距離から、杭に向って投げる練習をしていたのであった。

「そこにいるのは栄さんかい」

清七にそう呼びかけられたとき、栄二は心臓が止るほど吃驚した。

「ああ」と栄二はかすれた声で答えた、「なにか用か」

いい晩だねと云いながら、清七が近よって来た。

「こんなところでなにをしてるんだね」

「いちんちぶらぶらしているんで」と栄二は口ごもりながら答えた、「躯がむずむずしてしようがないもんだから、こんないたずらをしているのさ」

そして彼は、持っていた丸薪を、杭に向って投げつけた。空は薄曇りで、雲のひとところが、ぼうと月光にうるんでいるだけだ。十二、三尺はなれた杭は、栄二の馴れた眼でもはっきりとは見えない。