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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
栄二が部屋へ戻り、閉めてある引戸をあけて、杖に重心をかけながら土間へはいると、りゅうがすり寄って来て、いきなり杖を足で払った。とつぜんのことで、栄二は悪いほうの足を痛めないようにするのが精いっぱいだった。彼は横さまに転倒し、そのままの姿勢でりゅうを見ながら、転ぶときにも手から放さなかった杖を、そろそろと引きよせた。
「ちんばだと思うからこっちはよけているのに」とりゅうは薄笑いをうかべながら云った、「なにが気にいらなくって突っかかるんだ、ここはおめえ一人の部屋じゃあねえんだぜ」
部屋の中はしんとなった。荒れだすまえにぱたっと風が死んだような、緊張した沈黙がひろがり、息をする者もないかと思えた。だがすぐに、誰かが板の間をあるいて来て、栄二の眼の前へ三本の丸薪を投げ出した。薪はにぶい音をたてて転がり、一本は栄二の肩に当った。
「これをどうするつもりだ」と板の間から問いかけてきた、義一の声であった、「こんな物でなにをしようってんだ」
栄二は静かに起きあがり、足を庇いながら、撞木杖にすがって立った。
「わるかったな」と栄二はりゅうに云った、「うっかりしてたんだ、勘弁してくれ」