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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「仲人があって知りあったならともかく」と栄二は云った、「おれたちはお互いどうしで知りあい、お互いどうしでいっしょになろうときめたんだ、式だけの仲人なんて、そんなごまかしはまっぴらだ」
「それはそうだろうが、世間てものもあるし」とさぶは太息をつきながら云った、「ゆく先なにかあった場合にも、中に立つ人がいたほうがよかあねえかと思うんだが」
「おめえがいるじゃねえか」栄二はさぶに指を向けて云った、「おれにもおすえにも、さぶっていう相談相手がいるだけで充分だよ」
さぶはてれくさそうな、けれども深い感動を眼に湛えながら、「栄ちゃん」と口の中で呼びかけた。――それは昨日のことだったが、今日は朝から、さぶは独りでうちそとを駆けまわり、寄場から四人が来ると、すぐに膳を並べたり酒を運んだりした。おまえは今日は主人役なんだから、雑用は任せて坐っていろ、と幾たびか栄二に云われたが、そんなはれがましいまねは苦手だとか、肩が凝ってだめだ、などと云って少しもおちつかなかった。
平蔵はそれでも紋付袴で、一升入りの角樽を二つ、酒屋の男に持たせてあらわれた。おすえは紬縞の着物に厚板の帯、足袋もはかないふだん同様の着つけだし、栄二も木綿縞の着物に三尺帯という恰好だった。