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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

栄二が平蔵に、寄場の人たちひとりひとりを、自分の恩人だと云ってひきあわせると、平蔵はそのたびに礼を述べ、丁寧に挨拶をした。寄場の者と聞いてもいやなようすは決してみせなかったし、言葉かずこそ少なかったが、挨拶のしかたも極めて尋常だった。

祝言といってもざっとしたものであった。二人が並んで坐り、貰ったばかりの箱膳を三方の代りに、三三九度の盃を交わしただけである。盃は与平の持って来た土器で、酒は燗徳利を使った。盃が終ると、おすえは給仕に立ち、栄二は下のほうへさがって坐った。

「おかげで無事にかための盃ができました、有難うございます」栄二は両手を突いて云った、「――ごらんのとおり私たちはすっ裸です、祝っていただいてもお返しはできません、さぶとおすえと私と三人、すっ裸で仕事に取りつきます、楽でないことはおすえもわかってくれるでしょうが、私は寄場で辛抱ということを教えられました、五年や十年は冷やめしを食っても辛抱し、きっと人並みの店を持つ覚悟です」

どうか見ていてもらいたいと、珍しく力んだ口ぶりで結んだ。

「おれが御祝儀をやろう」と万吉が酔いの出た赤い顔で云った、「いけねえかな松田さん、たかさごやだよ」