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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「大丈夫だよ、心配することはないよ」とさぶは繰返し云った、「小舟町だって夏場はひまだった、毎年こんなふうだったじゃないか、すず風が吹きだせばいそがしくなるよ」
「おれは心配なんかしてやしない」そう云って栄二は笑った、「なんだって初めからとんとん拍子にいくもんじゃあないさ、おめえは苦労性だな」
これなら寄場のほうがよかった。はるかによかったと云ってもいい、食う心配はなし、仕事はいつもあるし、賃銀も貰えるし、病気になればただで治療も受けられる。寄場から出たがらない者が少なくないのは当然だな、と栄二はひそかに思った。――かれらの生活をみて、これは飼殺しだと思ったこともあるが、いま妻をもち、小さいながら自分たちの店をもって、いちにちいちにち生きてゆくということの、息苦しい困難さにぶつかってみると、改めて寄場で聞いた言葉の意味がわかるように思えた。
――ここでは、一つの仕事を幾十人かで奪いあわなければならない、と栄二は思った。どの職に限らず、その仕事を自分のものにするには誰にも負けない腕をもたなくてはいけないし、それでもちょっとゆだんをすれば、横から人に取られてしまう、まるで一疋の餌食を奪いあう狼の群れのようだ。