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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

手間賃の安いのをいとわず、注文があればどんな仕事でもしたし、注文のないときには長屋用のからかみを作って、売物に出したりしたが、それでも八月にはいると、持っていた僅かな貯えさえ底をついてしまった。

「こんなことを云うと人でなしのようだけれど」と或るときさぶが呟いた、「大きな火事でもあってくれたら、少しは息がつけるんだがな」

「大火事があるとすれば」と栄二が云った、「まっ先にこのうちが焼けるだろう、運不運というのはそんなものさ、おかしなことを考えるより、糊の仕込みを大事にしてくれよ」

おすえはよくやっていた。初めから新世帯などという色めいた、華やかな気分はまるでなかった。家事の手があけばすぐに仕事場へ出て、小まめに栄二の手助けをした。綿文のあとで奉公にいった先も、日本橋通り二丁目の大きな商家で、やはり上女中をしていたというから、手爪先もきれいにほっそりしていたが、その手もたちまち荒れ、節ぶしも高くなるばかりであった。五十日あまりは新妻らしく結っていた髪も、髪結い賃と暇が惜しいため、いつか束ね髪で済ますようになり、もちろん紅白粉などつけることもなくなっていった。