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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
十五の五
「よかったわね、よかったわ」おすえははずんだ声で云った、「あたしおのぶさんの親切、一生涯忘れないわ」
「そんなことをこれっぽっちでも云ってみろ、のぶ公はかんかんになって怒るぞ」
そうよ、あの人あんたが好きなんだもの、心の中でおすえはそう云ったが、むろん口には出さなかった。
「それで、下見にはいつでかけるの」
「明日だ、明日の暗いうちに立つとしよう」
「江ノ島って遠いんでしょ」
「初めてだからわからないが、箱根よりこっちなことは慥かだ」
晩めしの支度をしようと云って、うきうきと立ちあがるおすえに、今日はさぶはどうした、と栄二がきいた。
「そう云われて思いだしたわ」とおすえは振り返って云った、「あたしおせえちゃんて人に会いました、あんたの云うとおり、きりょうよしでしっかりした、いい人ね」
「ここへ来たのか」
「あたしがいったんです、あんたが湯へいったままあんまり帰りがおそいので、さぶちゃんのところにでもいってるかと思って、金杉までいってみたんです」
栄二は眩しそうに、「済まなかったな」と云いながら眼をそらした。
「あんたの云ったとおりよ」おすえは勝手へゆきながら云った、「あの人さぶちゃんのおかみさんにぴったりだわ」