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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

そのうえ面白いのは、おれが全体の見積りを出すと、さぬき屋の旦那はそれに五割増してくれた。おまえさんの見積りが気にいった、費用が見積りを越すようなら遠慮なくそう云ってくれってさ、いまどきこんな客はあるもんじゃねえぜ、と栄二は云った。

それからふと、自分が饒舌りすぎていることに気づくと、急に口をつぐんで、さぶはどうした、そうきこうとしたとき、表の格子があいてさぶの声が聞えた。あがれよと栄二が云い、はいって来たさぶを見ると、めくら縞の着物に木綿の千筋の羽折を重ね、あたまも結い直してあった。

「坐れよ」栄二はなにも眼につかないようすで云った、「江ノ島の仕事がきまったぜ」

そして、箪笥から胴巻を取出して来、坐ったさぶの前へ押しやった。

「半金の三十五両だ」と栄二は云った、「尤も手付けに五両貰ってるから、残りは三十両ということになるがね」

「すると」さぶは唇を舐めた、「すると、七十両の仕事か」

「仕上りによっては五割増しになる、が、まあそいつは当てにしないことにしよう」

「おどろいたな、さすがに栄ちゃんだな」とさぶは吃りながら云った、「おらなんざ、いつもでき合いの駄仕事にしきゃ当らねえのに、やっぱり腕のあるなしじゃあ人間の格が違うんだなあ」