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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

三の三

おのぶがそこへ、残りの火だねと炭を、十能にのせて持って来た。

三の三

膳の上には摘まみ物の小皿が三つ四つに、燗徳利が三本並んだ。栄二の顔はすでに赤く、おのぶも眼のまわりが染まっていた。

「嘘よう、なにかわけがありそうよ」おのぶは盃を持ったままでかぶりを振った、「――橋を渡って来てひょいと見たとき、栄さんは身投げでもしそうな顔をしていたわ」

「ばか云え」栄二は眩しそうにまばたきをした、「ただ酒が飲みたかっただけだ」

「あの顔がね、さぞそうでしょうよ」

おのぶは酒を啜って、それから栄二に酌をした。

「おめえこそ」と彼は盃の中の酒をみつめながら云った、「――三日もうちへ帰っていたなんて、なにか変ったことでもあったのか」

「その話はよしましょう」と云っておのぶは栄二の眼つきに気づいた、「なにかはいってますか」

栄二は盃の酒を盃洗へあけ、すぐに手酌で注ぎながら、なんでもない、ごみだと云って、また盃の中をみつめてから酒を啜った。

「いつかここの帰りに」と栄二が云った、「三人のやくざみてえなやつにからまれたことがあったっけ」

「三年まえのことね」とおのぶは指を折ってから云った、「あのときはごめんなさい、あたしの兄だって云ったのは、女衒の六っていうならず者で、あたしの身を売って金にしようとしていたんです」