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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

「茶でも飲んで少し気をしずめろ」と和助が静かに云った、「もう冷えちまったがひとくち飲めよ」

栄二は茶をひとくち啜った。それで喉が熱く、渇いていることに気づき、あとはひと息に飲みほした。

「おめえは本町のお店ではにんき者だった」と和助は云った、「ことに二人の娘さんは栄二びいきで、小さいじぶんには歌留多、お手玉、おはじき、追い羽根と、なんでも遊び相手にされたし、旦那もおかみさんもそれをよろこんでいたようだ、だからおめえはお互いに気ごころが知れてると思ってるんだろう」

「だってそのとおりじゃあねえだろうか」

「人間の気持なんてものはいつも同じじゃあねえ、殴られても笑っていられるときがあるし、ちょっとからかわれただけで相手を殺したくなるようなこともある」と和助は云った、「本町のお店にとって、おめえはしょせん出入りの職人だ、まして向うは大金持、なにか事があればいくらひいきにした人間でも、遠慮や会釈はしねえだろう」

「なにか事があればって」と云って栄二は唇を舐めた、「――そんなような事がなにかあったんですか」

「自分で思い当らねえか」

「じゃあ、ほんとになにかあったんですね」