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さぶ

さぶ

山本 周五郎

「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页

青空文庫

さぶは不決断にううと云った。

「ありがと」とさぶはよく聞きとれない声で云った、「ごめんよ、栄ちゃん」

「こんどは黙ってとび出さねえでくれよ」と栄二は云った、「これからはなんでもおれに相談してくれ、力になるからな」

さぶはゆっくりと頷いた。

二人は引返した。そして両国橋まで戻ると、うしろから十二、三になる少女が追って来て、せいせいと喘ぎながら声をかけた。

「この傘をさしなさいよ」と少女はから傘を二人のほうへ差出した、「姉さんのとこへ持ってゆくんだから、方角ちがいじゃだめだけれど、さあ、さしなさいよ」

栄二は少女を見た。自分でさしている傘は穴があいていた。着ているのも継ぎのあたった青梅縞の古袷で、帯はよれよれだし、はいている下駄はちびたおとな物で、それもすっかり鼻緒がのびているから、泥のはねた足指をまむしにしていた。

「いらねえよ」と栄二が云った、「おれたちは小舟町へ帰るんだ、さっさといっちまいな」

「あら、ちょうどいいじゃない」と少女はうれしそうに笑った、「あたしは堀江町よ、堀江町のすみよしっていうお店に姉さんが勤めているの、だからあたし、あんたたちのうちまで送っていってもいいのよ」