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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
そして彼はそこへ横倒しになった。
ばかなまねをするなよ、穏やかにやるんだ。どなったり、相手をへこますような口をきいちゃあいけない。したでに出るんだ、金持は痛いはらをさぐられるのを嫌うからな、そらを使って相手にゆだんをさせるんだ。嘘とまことは眼にあらわれる、口はごまかせても眼はごまかせねえ、肝心なのは眼だ、と栄二は自分に云った。
あら、また来たのあんた、という女の声が聞えた。いやだわ、あんた陰気なんだもの、まるでいまにも首をくくる人みたい、ねえ、陽気にやろうよ、ぱあっとさ、いいでしょ。酔っぱらってるんだろう、酔って文句を云いに来るなんてだらしのないやつだ、どこかへ伴れていって酔いをさましてやれ。さあ、あんたどうするのさ、客はあんた一人じゃないんだよ、さっさとおしなね、いけ好かないよ、この人。ああ、と彼は呻いた。
「おっ母さん」と栄二は云った、「おらあ苦しくってたまらねえよ、おっ母さん」
彼はすすり泣いた。こんどもまた自分には、宿なし犬が腹をへらして鳴いているように聞えた。
「ほら、水溜りだよ」
「放してくれ」栄二は左の腕を自由にしようとした、「この手を放せよ」