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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
「もうちっとだ、おめえ倒れちまうぜ、栄ちゃん」
「さぶだな、どうしたんだ」
「堀江町へゆくんだ」とさぶが云った、「ほかにどうしようもねえからな、それとも浅草の店へいこうか」
「ばか云え、おらあ綿文へ談判にいくんだ」
「そんなに酔っていちゃあだめだ、酔いをさましてからにしよう」さぶは肩へかけている栄二の腕のぐあいを直した、「いいからもっとよっかかんなよ、おら大丈夫だから」
「おめえどうしておれのことがわかった」
「本町のお店へ仕事に来たら、栄ちゃんが酔いつぶれてたんだ」とさぶが答えた、「――それから女中部屋で寝かしとこうってことになったけれど、おめえがあんまり大きな声でどなるんで、外へ伴れだすよりしようがなかったんだよ」
「そうか、おれにゃあよくわからねえ」栄二は強く頭を振った、「夢とうつつがごちゃまぜになっちゃって、どこでなにをしたかも覚えちゃあいねえ、今日はなんにちだ」
「二十一日だ」とさぶが云った、「おめえ浅草の店を十五日に出たっきりだっていうじゃねえか」
「水が飲みてえ」
「その角を曲ればすみよしだ、もうちっとの辛抱だよ」
「だめだ、もうあるけねえ」
栄二の膝が崩れ、ずるずるとそこへ坐りこんだ。