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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
おのぶはそう云ってあやすように微笑した、「どーお、少しは胸がおさまって」
「眠ってみよう」と栄二が云った。
水を持って来ておこうと、おのぶが去り、栄二は眼をつむった。眠れはしないだろうと思ったのに、そのまま眠ってしまったらしい。おのぶが来て、枕許へ水を置いていったのを、おぼろげに記憶しているだけで、人の話し声を聞きつけて眼をさますと、部屋の中は昏れかかっていた。彼は掻巻をはいで眠っていたとみえ、右の肩から腕がすっかり冷えているのに気づいた。
「もう少し寝かしておきましょう」とおのぶが云っていた、「幾日もろくに眠らなかったようだから」
「じゃあおれは店までいって来よう」とさぶの云うのが聞えた、「あにいたちに断わっとくことがあるんだ」
「あたし待っていたいんですけれど」と女の細い声が云った、「ここにいていいでしょうか」
「ええいいわ、もうすぐに客が来て、あたしは手がぬけなくなるでしょ、あんたが栄さんの面倒をみてくれれば助かるわ」とおのぶが云った、「でも、お店のほうはいいの」
「ええ構いません、そういうふうにして来ましたから」
おすえだな、と栄二は思った。慥かにおすえの声だ、どうしてこんなところへ来たんだろう。