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さぶ
さぶ
山本 周五郎
「週刊朝日」 1963(昭和38)年1月4日号~7月5日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 210,521 字 · 415 页
栄二は喉いっぱいに叫んだ、「きさまたち殺してくれるぞ」
彼は死んでやろうと思った。自分も死ぬ代りに相手も一人は殺してやろうと思い、力をこめて両手両足を振りまわした。けれども火消しの若い者たちは馴れているとみえ、巧みに栄二をあしらいながら、彼を俯伏せにして押え込み、その顔を道の上へこすりつけた。
「番小屋へ連れていけ」と頭が云った、「人立ちがしてみっともねえぞ」
「野郎、じたばたするなよ」と若い者の一人が云い、栄二の脇腹を拳骨で力いっぱい突いた、「温和しくしねえと片輪者にするぞ」
栄二は脇腹を突かれて息が詰り、躯をまるく跼めて、かれらのするままになった。
番小屋は外濠に面した本町の角にある。三人が栄二を連れ込んだとき、目明しと子分の者がい合わせ、頭は知りあいらしく、なにか口早に事情を話して栄二を渡し、自分たちは帰っていった。あとでわかったのだが、その目明しは日本橋弓町の太田屋助二郎、子分は島造という者であった。
栄二は板の間へぶっ倒れたまま、躯じゅうの痛み、特に脇腹の痛みで呻っていた。云うまでもなく、そういう肉躰的な痛さよりも、なにより耐えがたいのは心の痛手であった。