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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
十面埋伏
一
早く首を斬れ」
しかし曹操は、あくまでその人物を惜しんで陣中におき、篤くもてなしておいた。ところが、沮授は隙を見て、兵の馬を盗みだし、それに乗って逃げだそうとした。
「……あっ」
沮授が、鞍につかまった刹那、一本の矢が飛んできて、沮授の背から胸まで射ぬいてしまった。曹操は自分のしたことを、
「ああ。われついに、忠義の人を殺せり」
と悲しんで、手ずから遺骸を祭り、黄河のほとりに墳を築いて、それに「忠烈沮君之墓」と碑にきざませた。
十面埋伏
一
袁紹はわずか八百騎ほどの味方に守られて、辛くも黎陽まで逃げのびてきたが、味方の聯絡はズタズタに断ち切られてしまい、これから西すべきか東すべきか、その方途にさえ迷ってしまった。
黎山の麓に寝た夜の明け方ごろである。
ふと眼をさますと。
老幼男女の悲泣哀号の声が天地にみちて聞えた。
耳をすましていると、その声は親を討たれた子や、兄を失った弟や、良人を亡くした妻などが、こもごもに、肉親の名を呼びさがす叫びであった。
「逢紀、義渠の二大将が、諸所のお味方をあつめて、ただ今、ここに着きました」
旗下の報らせに、袁紹は、
「さては、あの叫びは、敗残のわが兵を見て、その中に身寄りの者がありやなしやと、案じる者どもの声だったか……」