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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

三

もちろん許攸はあとに残した。態よく陣中にもてなさせておいて、曹洪を留守中の大将にさだめ、賈、荀攸を助けに添え、夏侯淵、夏侯惇、曹仁、李典などもあとの守りに残して行った。

そして、彼自身は。

五千の偽装兵をしたがえ、張遼、許を先手とし、人は枚をふくみ馬は口を勒し、その日のたそがれ頃から粛々と官渡をはなれて、敵地深く入って行った。

時、建安五年十月の中旬だった。

三

袁紹の臣沮授は、主君袁紹に諫言して、かえって彼の怒りをかい、軍の監獄に投じられていたが、その夜、獄中に独坐して星を見ているうちに、

「……ああ。これはただごとではない」と、大きくつぶやいた。

彼の独り言を怪しんで、典獄がそのわけを問うと、沮授はいった。

「こよいは星の光いとほがらかなのに、いま天文を仰ぎ見るに、太白星をつらぬいて、一道の妖霧がかかっている。これ兵変のある凶兆である」

そして彼は、典獄を通して、主君の袁紹に会うことをしきりに――しかも、火急に嘆願したので、折から酒をのんでいた袁紹は、何事かと、面前にひかせて見た。

沮授は、信念をもって、

「こよいから明け方までの間に、かならず敵の奇襲が実行されましょう。