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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

二

泥河あり、湖沼あり、断崖あり――あらゆる難路が横たわっているので、もし田疇がいなかったら、地理の不案内だけでも、曹軍は立往生したかも知れなかった。

かくて、ようやく夷狄の大将冒頓の柳城(遼寧省)へ接近した。

時、建安の十一年、秋七月だった。

二

柳城の西、白狼山を陥し、曹操はこれに立って、敵を俯瞰した。そしていうには、

「おびただしい夷族の整備ではある。けれど悲しいかな、夷族はやはり夷族。あの配陣はまるで兵法を知らないものの児戯だ。一戦に蹴破ってよろしい」

すなわち張遼を先鋒に、于禁、許、徐晃などを、三面から三手に分け、城外の敵を一塁一塁踏み破り、ついに夷将冒頓を討ち取って、七日のうちに柳城を占領してしまった。

袁煕と袁尚は、ここにひそんで督戦していたが、またも拠るところを失ったので、わずか数千の兵をつれて遼東のほうへ逃げ足早く落ちて行った。

そのほかの夷兵は全部、降参して出た。曹操は、田疇の功を賞して、柳亭侯に封じたが、田疇はどうしても受けない。

「それがしは以前、袁紹に仕えて、なお生きている身なのに、旧主の遺子を追う戦陣の道案内に立って、爵禄を頂戴するなど、義において忍びません」