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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

関羽千里行

一

関羽千里行

一

時刻ごとに見廻りにくる巡邏の一隊であろう。

明け方、まだ白い残月がある頃、いつものように府城、官衙の辻々をめぐって、やがて大きな溝渠に沿い、内院の前までかかってくると、ふいに巡邏のひとりが大声でいった。

「ひどく早いなあ。もう内院の門が開いとるが」

すると、ほかの一名がまた、

「はて。今朝はまた、いやにくまなく箒目立てて、きれいに掃ききよめてあるじゃないか」

「いぶかしいぞ」

「なにが」

「奥の中門も開いている。番小屋には誰もいない。どこにもまるで人気がない」

つかつか門内へ入っていったのが、手を振って呶鳴った。

「これやあ変だ! まるで空家だよ!」

それから騒ぎだして、巡邏たちは奥まった苑内まで立ち入ってみた。

するとそこに、十人の美人が唖のように立っていた。

「どうしたのだ? ここの二夫人や召使いたちは」

巡邏がたずねると、美姫のひとりが、黙って北のほうを指さした。

この十美人は、いつか曹操から関羽へ贈り、関羽はそれをすぐ二夫人の側仕えに献上してしまい、以来、そのまま内院に召使われていた者たちであった。

関羽は曹操から贈られた珍貴財宝は、一物も手に触れなかったが、この十美人もまたほかの金銀緞匹と同視して、置き残して去ったものである。