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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
三
それから数日、昼は深林や、沢のかげに眠って、夜となると、車をいそがせた。
沂水関へかかったのも、宵の頃であった。
ここには、もと黄巾の賊将で、のちに曹操へ降参した弁喜というものが固めていた。
山には、漢の明帝が建立した鎮国寺という古刹がある。弁喜は、部下の大勢をここに集めて、
「――関羽、来らば」と、何事か謀議した。
三
夜あらしの声は、一山の松に更けて、星は青く冴えていた。
折ふし、いんいんたる鐘の音が、鎮国寺の内から鳴りだした。
「来たっ」
「来ましたぞっ」
山門のほうから飛んできた二人の山兵が廻廊の下から大声で告げた。
謀議の堂からどやどやと人影があふれ出てきた。大将弁喜以下十人ばかりの猛者や策士が赤い燈火の光をうしろに、
「静かにしろ」と、たしなめながら欄に立ちならんで山門の空を見つめた。
「来たとは、関羽と二夫人の車の一行だろう」
「そうです」
「山麓の関門では、何もとがめずに通したのだな」
「そうしろという大将のご命令でしたから、その通りにいたしました」
「関羽に充分油断を与えるためだ。洛陽でも東嶺関でも、彼を函門で拒もうとしたゆえ、かえって多くの殺傷をこうむっておる。