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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

雪千丈

一

「ああ、途方もない寒さだ。――馬鹿げているわい」

張飛は、顔をしかめながら、雪風の中で聞えよがしに呟いていたが、玄徳のそばへ寄って、またこういった。

「家兄、家兄。いい加減にしようじゃありませんか、軍もせず、こんな思いを忍んで、無益な人間を尋ねて一体どうするんです? しばしそこらの民家へ立ち寄って寒気をしのぎ、新野へ引き返されては如何ですか」

聞くと、玄徳は、

「ばかなことを申せ」と、叱って、

「おまえは、厭か、寒いか」

と、常になく烈しい眉を雪風にさらしながら云った。張飛も負けずに、赤い面をふくらせて、

「戦をするなら、死ぬのも厭いはしないが、こんな苦労は意味がない。なんのために、こんな馬鹿げた苦労をしてゆくのか、誰にだって分りやしません」

「予の訪う孔明に対し、予の熱情と慇懃を知らしめんためである」

「それは、家兄だけの独り合点というものでさ。冗談でしょう。こんな大雪の日に、どやどや客に来られたひには、先だって大迷惑する」

「――誰か知らん千丈の雪。おまえは黙ってついて来い。また、歩くのが嫌なら一人で新野へ帰れっ」

もう村の中らしい。道の両側、ところどころに家が見える。