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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

三

なだめられて、夏侯惇もついに渋々、軍兵を収めて帰った。

三

張遼はあとに残って、関羽へ、

「にわかに道をかえられ、いったいどこへ行くおつもりか」と、解せぬ顔できいた。

関羽は、あからさまに、

「玄徳の君には、袁紹のもとを脱し、もうそこには居給わぬと途中で聞いたもので」

「おう、そうですか。もしかの君の所在が、どうしても知れなかったら、ふたたび都へかえって、丞相の恩遇をうけられたがいい」

「武人一歩を踏む。なんでまた一歩をかえしましょうや。舌をうごかすのさえ、一言金鉄の如しというではありませんか。――もしご所在の知れぬときは、天下をあまねく巡ってもお会いするつもりでござる」

張遼は黙々と都へ帰った。別れる折、関羽は言伝てに、曹操の信義を謝し、また大切な部下を殺めたことを詫びた。

孫乾に守られて、車はもう先へ行っていた。しかし赤兎馬の脚で追いつくことは容易であった。

さきの車も、あとの彼も、冷たい通り雨にあって濡れた。――

で、その晩、泊めてもらった民家の炉で、人々は衣類を火にかざし合った。

ここの主は、郭常という人の良さそうな人物だった。羊を屠って焙り肉にしたり、酒を温めて、一同をなぐさめたりしてくれた。