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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

二

牧野の一戦、血、杵を漂わす

朝歌一旦、紂君を誅す

また見ずや

高陽の酒徒、草中に起こる

長揖山中隆準公

高く大覇を談じて人耳を驚かす

二女足を濯うて何れの賢に逢わん……

玄徳は、そのまま、雪に埋もれかけてゆくのも忘れて、じっと、聞き惚れていた。

二

するとまた、別人の声が、卓をたたいて高吟しだした。ひとりは、それに合わせて、箸で鉢をたたく。

漢皇剣をひっさげて寰宇を清め

一たび強秦を定む四百載

桓霊いまだ久しからず火徳衰う

乱臣賊子鼎を調え

群盗四方にあつまる蟻の如し

万里の奸雄みな鷹揚

吾ら大嘯、空しく手を拍つのみ

悶え来って村店に村酒を飲む……

歌い終ると、

「あははは」

「わははは」

梁の塵も落すような笑い声である。

「さては、――」と、玄徳は、歌の意味から察して、

「どちらか一方は、かならず孔明にちがいあるまい」

と、急に馬をおりて、居酒屋のうちへずかずかはいって行った。

ただの板を打った、細長い卓によって、二人の処士が飲んでいた。ふいに門口からはいってきた、玄徳のすがたを見――唖然として――どっちも眼をまろくする。

向う側の老人は、木瓜の花みたいに真っ赤な顔はしているが、容貌は奇古清潔で、どこか風格がある。