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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

五

次男の袁煕は、ここで深傷を負い、甥の高幹も、重傷を負った。

夜もすがら、逃げに逃げて、百余里を走りつづけ――翌る日、友軍をかぞえてみると、何と一万にも足らなかった。

五

逃げては迫られ、止まればすぐ追われ、敗走行の夜昼ほど、苦しいものはないだろう。

しかも一万の残兵も、その三分の一は、深傷や浅傷を負い、続々、落伍してしまう。

「あっ? 父上、どうなされたのですか」

遅れがちの父の袁紹をふと振返って、三男の袁尚が、仰天しながら駒を寄せた。

「兄さん! 大変だっ、待ってくれい」

ふたたび彼は大声で、先へ走ってゆく二人の兄を呼びとめた。

袁譚、袁煕の二子も、何事かとすぐ父のそばへ引返してきた。全軍も、混乱のまま、潰走を止めた。

老齢な袁紹は、日夜、数百里を逃げつづけてきたため、心身疲労の極に達し、馬のたてがみへうつ伏したまま、いつか、口中から血を吐いていたのであった。

「父上っ」

「大将軍っ」

「お気をしっかり持って下さい」

三人の子と、旗下の諸将は、彼の身を抱きおろして懸命に手当を加えた。

袁紹は、蒼白な面をあげ、唇の血を三男にふかせながら、

「案じるな。……何の」