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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
四
秀雅にして高からぬ山、清澄にして深からぬ水、茂盛した松や竹林には、猿や鶴が遊んでいる。玄徳は、ここの山紫水明にも、うしろ髪を引かれてならなかった。
すると、岡のふもとから身に青衣をまとい、頭に逍遥頭巾をいただいた人影が、杖をひいて登ってきた。
近づいてみると、眉目清秀な高士である。どこか幽谷の薫蘭といった感じがする。玄徳は心のうちで、
(これなん、諸葛亮その人であろう)
と、思い、急に馬からおりて、五、六歩あるいた。
四
ふいに馬をおりてきて、自分へ慇懃に礼をする玄徳を見て――烏巾青衣のその高士は、
「なんです? どなたですか、いったい?」
と、さもうろたえ顔に、杖をとめて、訊ね返した。
玄徳は、謹んで、
「いま先生の廬をお訪ねして、むなしく戻ってきたところです。計らずもここでお目にかかり、大幸、この上もありません」と、いった。
青衣の高士は、なお愕いて、
「何か、人違いではありませんか。いったい将軍は、いずこの御人ですか」
「新野の劉備玄徳ですが」
「えっ、あなたが?」
「孔明先生は、其許でしょう」
「ちがいます! ちがいます! ……霊鳥と鴉ほど違います」
「では、何びとでおわすか」