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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

二

「御身からそれとなく諫めたほうがよかろう。此方から申し上げれば、表立って、自然、角も立つからな」

蔡夫人はうなずいた。

その後、良人の劉表と、ただ二人きりの折、彼女は女性特有な細かい観察と、針をふくむ綿のような言葉で、

「すこしはご要心遊ばして下さいませ。あなたはあなたご自身のお心で、世間の者もみな潔白だと思って、すぐご信用になりますけれど、どうして、玄徳などという人には、油断も隙もありはしません。――あの人は以前沓売りだったというじゃありませんか。義弟の張飛は、ついこの間まで、汝南の古城に籠って強盗をしていたというし。……何だか、あの人がご城下へきてから、とても藩中の風儀が悪くなったような気がします。ご譜代の家臣たちも、みな胸を傷めているそうでございますし」と、有ることないこと、さまざまに誹った。

それをみな真にうけるほど、劉表も妻に甘くはないが、なんとなく玄徳に対して、一抹の不安を持ったことは否めない。

閲兵のため、城外の馬場へ出た日である。劉表は、ふと、玄徳の乗っている駿壮の毛艶とそのたくましい馬格を見て、

「すばらしい逸足ではないか」と、嘆賞してやまなかった。