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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

「曹操自身、大軍を指揮して、麓から総がかりに襲せてきます」

物見はしきりと、ここへ急を告げた。――玄徳は、怖れふるえた。夫人や老幼の一族を、如何にせん? ――と憂い悩んだ。

「孫乾を、夫人や老少の守護にのこし、その余の者は、のこらず出て、決戦しよう」

これが大部分の意見だった。

玄徳も決心した。関羽、張飛、趙子龍など、挙げて、麓の大軍へ逆落しに、突撃して行った。

半日の余にわたる死闘、また死闘の物凄じい血戦の後、月は山の肩に、白く冴えた。

その夜、曹操は、

「もはや、これ以上、痛めつける必要もあるまい」

と、敗将玄徳の無力化したのを見とどけて、大風の去るごとく、許都へ凱旋してしまった。

わずかな残軍を、さらに散々に討ちのめされた玄徳、わずかな将士をひきつれて、ここかしこ流亡の日をつづけた。

ひとつの大江に行きあたった。

渡船をさがして対岸へ着き、ここは何処かと土地の名を漁夫に訊くと、

「漢江(湖北省)でございます」と、いう。

その漁夫が知らせたのであろう、江岸の小さい町や田の家から、

「劉皇叔様へ――」と、羊の肉や酒や野菜などをたくさん持ってきて献じた。