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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

自壊闘争

一

劉表は郭外三十里まで出迎え、互いに疎遠の情をのべてから、

「この後は、長く唇歯の好誼をふかめ、共々、漢室の宗親たる範を天下に垂れん」

と、城中へ迎えて、好遇すこぶる鄭重であった。

このことは早くも、曹操の耳に聞えた。

曹操はまだ汝南から引揚げる途中であったが、その情報に接すると、愕然として、

「しまった。彼を荊州へ追いこんだのは、籠の魚をつかみそこねて、水沢へ逃がしたようなものだ。今のうちに――」

と、直ちに、軍の方向を転じて、荊州へ攻め入ろうとしたが、諸将はひとしく、

「今は、利あらずです。来年、陽春を待って、攻め入っても遅くありますまい」

と、一致して意見したので、彼も断念して、そのまま許都へ還ってしまった。

――が、翌年になると、四囲の情勢は、また微妙な変化を呈してきた。建安七年の春早々、許都の軍政はしきりに多忙であった。

荊州方面への積極策は、一時見合わせとなって、ただ夏侯惇、満寵の二将が抑えに下った。

曹仁、荀には、府内の留守が命ぜられ、残る軍はこぞって、

「北国へ。――官渡へ」

と、冀北征伐の征旅が、去年にも倍加した装備をもって、ここに再び企図まれたのであった。