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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

二

玄徳は身をすすめて、

「お召仕えの童子の案内に従い、はからずご尊顔を拝す。私としては、歓びこの上もありませんが、ご静居をさわがせた罪は、どうぞおゆるし下さい」と、慇懃、礼をほどこして詫びた。

すると、童子が傍らから、

「先生、この方が、いつも先生やお友達がよく噂しておいでになる劉玄徳というお人ですよ」

と、告げた。

司馬徽は非常におどろいた態である。うやうやしく礼を返して、草堂の内に迎え入れ、改めて賓主の席をわかち、さて、

「ふしぎなご対面ではある」と、こよいの縁をかこち合った。

塵外の住居とはこういうものかと、玄徳はそのあたりを見廻してそぞろ司馬徽の生活を床しく思った。架上には万巻の詩書経書を積み、窓外には松竹を植え、一方の石床には一鉢の秋蘭が薫り、また一面の琴がおいてある。

司馬徽は、玄徳の衣服が濡れているのを見て、やがて訊ねた。

「今日はまた、どうしたご災難にお遭いなされたのじゃ。おさしつかえなくば聞かせて下さい」

「実は檀渓を跳んで、九死のうちにのがれて来ましたので、衣服もこんなに湿うてしまいました」

「あの檀渓を越えられたとすれば、よほどな危険に追いつめられたものでしょう。