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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

三

聞くと、玄徳は急に、不愉快な色を面にあらわして、家臣を呼び、

「湯を点ぜよ」

と、素っ気なくいいつけた。

湯を点ぜよ――ということは、ちょうど、酒客に対して茶を出せとか、飯にしろとか、主人が給仕の家族へ促すのと同じことである。つまり主人から酒の座を片づける意味を表示したことになる。

「お待ちなさい。わざわざ拙者を呼び迎えながら、湯を点ぜよとは、何事であるか、何で急に客を追い立て給うか」

単福としてはなお、面白くないに違いない。杯を下において、こう開き直った。

三

――すると玄徳も、容をあらためて単福へ云った。

「君を伴って、ここへ客として迎えたのは、君を志操の高い人と見たからであった。しかるに今、汝の言を聞けば、仁義を教えず、かえって、不仁の佞智をわれにささやく。玄徳はそういう客へ礼遇はできない。早く立ち帰ったがよかろう」

「ははは、なるほど、劉玄徳は、うわさに違わぬ仁君だ……」と、単福はさも愉快そうに手を打って、

「お怒りあるな。実はわざと心にもない一言を呈して、あなたの心を試してみたまでです。どうか水に流して下さい」

「いや、それなら歓ばしい限りです。願わくは、真実の言を惜しまれず、玄徳のために、仁政を論じ、善き経綸をお聞かせたまわりたい」