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さんごくし
三国志
吉川 英治
06 孔明の巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页
まどろむほどの間もないが、牀に寄って、玄徳もひとり居眠っていると、孫乾がそっと訪ねて、
「わが君。どう考えても、徐庶を許都へやるのは、大きな不利です。あのような大才を、曹操の所へわざわざ送ってやるなど、愚の至りです。何とか彼をお引きとめになったら、如何ですか。今のうちなら、いかなる策も施せましょう」と、囁いた。
玄徳は、黙然としていた。
孫乾は、なお語を強めて、
「それのみならず、徐庶は、味方の兵数、内状、すべてに精通していますから、その智を得て、曹操の大軍が襲せてきたら、如何とも防ぎはつきますまい」
「…………」
「禍を転じて、福となすには、徐庶をこの地に引きとどめ、益※(二の字点、1-2-22)、防備を固めるにあります。必然、曹操は、徐庶に見切りをつけて、その母を殺すでしょう。しかる時には、徐庶にとって、曹操は母の仇となりますから、いよいよ敵意を励まして、彼を打ち敗ることに、生涯を賭けるにちがいありません」
「だまれ」
玄徳は、胸を正した。
「いけない。そんな不仁なことは自分にはできない。――思うてもみよ。人にその母を殺させて、その子を、自分の利に用いるなど、君たるもののすることか。