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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

「いささか、小宴を設けて、将軍の旅愁をおなぐさめいたしたいと、主人王植が申されますが」

と、迎えがきたが、関羽は、二夫人のお側を一刻も離れるわけにはゆかないと、断って、士卒とともに、馬に秣糧を飼っていた。

王植は、むしろよろこんで、従事胡班をよんで、ひそかに、謀計をさずけた。

「心得て候」とばかり、胡班はただちに、千余騎をうながして、夜も二更の頃おい、関羽の客舎をひそやかに遠巻きにした。

そして寝しずまる頃を待ち、客舎のまわりに投げ炬火をたくさんに用意し、乾いた柴に焔硝を抱きあわせて、柵門の内外へはこびあつめた。

「――時分は良し」と、あとは合図をあげるばかりに備えていたが、まだ客舎の一房に燈火の影が見えるので、何となく気にかかっていた。

「いつまでも寝ない奴だな。何をしておるのか?」

と、胡班は、忍びやかに近づいて房中をうかがった。

すると、紅蝋燭の如く赤い面に漆黒の髯をふさふさとたくわえている一高士が、机案に肱をついて書を読んでいた。

「あっ? ……この人が関羽であろう。さてさてうわさに違わず、これは世のつねの将軍ではない。天上の武神でも見るような」