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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

臥龍の岡

一

臥龍の岡

一

さて。

ここで再び、時と場所とは前にもどって、玄徳と徐庶とが、別離を告げた道へ還るとする。

×     ×     ×

「骨肉の別れ、相思の仲の別れ。いずれも悲しいのは当然だが、男子としては、君臣の別れもまた断腸の一つだ。……ああ、きょうばかりは、何度思い止まろうかと迷ったか知れぬ」

徐庶は、駒を早めていた。

今なお、玄徳の恩に、情に、うしろ髪を引かれながら――。

だが、都に囚われている母の身へも、心は惹かれる。矢のように急がれる。

徐庶の心は忙しかった。

また、そんな中でも、後に案じられるもう一つのことは、別れぎわに自分から玄徳へ推薦しておいた諸葛孔明のことである。かならず主君玄徳は、近日、孔明を訪れるであろうが、果たして、孔明が請いを容れるかどうか?

「彼のことだ、恐らく、容易にはうごくまい」

徐庶は、責任を感じた。また、玄徳のために、途々、苦念した。

「そうだ……隆中へ立寄っても、さして廻り道にはならぬ。――別辞かたがた孔明にもちょっと会って行こう。そして主君玄徳の懇望があったら、ぜひ召しに応じてくれるよう、自分からもよく頼んでおこう」