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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

放浪のうち、ふと新野で拾い上げられたに過ぎません」

さりげなく、二、三の雑談を交わして後、やがて、徐庶は曹操のゆるしを得て、奥の一堂にいる老母のところへ会いに行った。

「あの内においでなされる」

と、案内の者は、指さしてすぐ戻って行く。――徐庶は清らかな園の一方に見える一棟を見るよりもう胸がいっぱいになっていた。彼は、そこの堂下にぬかずいて、

「母上! 徐庶です。徐庶が参りました」と、声をかけた。

すると、彼の老母は、さも意外そうに、わが子のすがたを見まもって訊ねた。

「おやっ? 元直ではないか。そなたは近頃、新野にあって、劉玄徳さまに仕えておると聞き、よそながら歓んでいたものを。……なんでこれへ来やったか?」

「えっ。不審しいことを仰っしゃいます。母上よりのお手紙に接し、主君よりおいとまを乞うて夜を日についでこれへ駈けつけて参りましたものを」

「何をうろたえて。……この母の胎から生れ出ながら、年三十有余にもなって、まだこの母が、そのような文を子に書く母か否かわからぬか」

「でも、……このお手紙は」と、出発の前に、新野で受け取った書簡を出してみせると、老母は、もってのほか怒って、顔の色まで変じ、