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さんごくし

三国志

吉川 英治

06 孔明の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 161,356 字 · 323 页

青空文庫

「いるよ、あっちに」と、木の間の奥を指さした。

見るとなるほど、田舎びた母屋とはかけ離れて一棟の書堂が見える。周瑜は童子たちに、

「ありがとう」と、愛想をいって、そこへ向う、疎林の小径を歩いて行った。

すると、立派な風采をした武人が供を連れて、鷹揚に歩いてきた。魯粛の訪客だなと思ったので、すこし道をかわしていると、客は周瑜に会釈もせず、威張って通りすぎた。

周瑜は気にもかけなかった。そのまま書堂の前まで来ると、ここには今、柴門をひらいて、客を見送ったばかりの主がちょうどまだそこにたたずんでいた。

「失礼ですが、あなたは当家のお主魯粛どのではありませんか」

周瑜がいんぎんに問うと、魯粛は豊かな眼をそそいで、

「いかにも、てまえは魯粛ですが、してあなたは」

「呉城の当主、孫権のお旨をうけて、突然お邪魔に参ったもの。すなわち巴丘の周瑜ですが」

「えっ、あなたが瑜君ですか」

魯粛は非常におどろいた。巴丘の周瑜といえば知らぬ者はなかったのである。

「ともあれ、どうぞ……」と、書堂に請じて、来意をたずねた。

うわさにたがわぬ魯粛の人品に、内心すっかり感悦していた周瑜は、辞を低うしてこう説いた。