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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「あの馬を人手には」と思ったのだろう。彼が得意とする丈八の蛇矛が馬首ひくめて進んで行ったかと見るまに、

「秦明、すこし休め」

と、灼の前にたちふさがった。

「おおっ、むかし禁軍にいた豹子頭か。あわれや、泥棒仲間へ落ちたおちぶれ者」

「なにを、廟堂の冷や飯食いめ」

発矢。

空を切った閃光に何かが鳴った。

しなやかなこと、鯨のヒゲの如き薄銅の長い二本の鞭だった。鞭には西域模様の金銀象嵌がちらしてある。

これを使う妙技は天下呼延灼あるのみなので、不思議な武器と相手に立つものはみな初手に大いに惑う。また防ぎようも見いだせない。――ひゅっと鳴って伸びるとおもえばスッと引く。あるいは輪をなし、あるいは波を描く。――林冲もいくたびとなく蛇矛をからめ取られんとした。しかし、灼にすれば、敵の蛇矛も息つくひまもないものだった。相互、炎の息となっている。

ところへ、第三の控え、花栄が陣をくり出して来た。そして林冲に代ったのである。林冲は一ト息つく。それをしおに、呼延灼もまた、

「おととい来い」

と、林冲をうしろに、自己の中軍へ消えこんでしまった。無視された花栄は癪にさわって、「……卑怯」