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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

妻の急病と称えて、賜暇はいただいたものの、禁軍への届けもあれきり……。こりゃどうしたものだろうな」

「ま、寧さん。そうご落胆にゃ及びますまいぜ。下手人のホシはついてることだし」

「けれど、こう何度も、鼻ッ先を掠めながら捕り逃がしているようではな」

「こっちも息が切れるが、逃げる野郎の方だって懸命にちがいねえ。ここが辛抱のしどころ。もう一ト息ってえところでさ」

すでに道は山東に入っており、冬の日も薄れだすと、楊柳の並木影は蕭条と肌寒く、街道百里、人影を見ることも稀れ……。

「や、や、やっ? 寧さん、寧さん。体を伏せて隠れなせえ」

「な、なんだ。どうして?」

「野郎がいます。あんな所に」

「げっ、いるって」

「ほれ、街道沿いのひだり側。松林があって、チラと古廟の門が見えるでしょ」

「むむ見える」

「よくごらんなせえ。どうも夕陽のせいで眩しくッていけねえが、廟門の石段に腰をかけ、野郎が朱い櫃をそばにおいて、休んでいる風じゃござんせんか」

「おッ、しめた……」

なんの猶予があろう、もう徐寧はそれへ向ってすッとんでいた。湯隆もあとから一目散に馳けまろぶ。すでに先の徐寧は、ばッと、逃げかけた痩せ男の襟がみをつかんでいた。