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しん・すいこでん
新・水滸伝
吉川 英治
「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页
「ぬけぬけと、ようそんな顔ができたものだ。彼方の僧房を覗いてみよ、汝のために手足を挫かれた怪我人が、枕を並べて呻いておるわ」
「それのみか、門前町から山上の途中でも、見晴らしの亭を打ちこわし、附近の娘どもを見れば、狼が鶏でも追うように、追っかけ廻して歩いてきたとか」
「いちいち挙げればきりがない。さほどな痴態悪業におよびながら、いまさらなんぞ、その白々しさは」
智深は二の句も出なかった。やがて悄々とその場を退がると、智真長老から再度よばれて、
「さても是非ない仕儀。このうえ、当山にとどめおかば、そちの恩人たる趙の長者にもいっそうご迷惑をかけることになろう。そこ思って神妙に退散せよ」
藍の脚絆手甲、一重の僧衣、それに鞋一足、銀子十両ほどの恩施が、前におかれていた。
智深は、ぽろりと涙をこぼした。そして、猫のように。
「どうも、なんともかとも、申しわけございません。われながら今はわが身を持てあましまする。といって首を縊る気にもなりませんが、いったい、この魯智深はどう生きていったらいいんでしょうか。ね、お上人さま」
智真長老は、胸のうちで、心易でも立てているのか瞑目久しゅうして、一偈をつぶやいた。