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しん・すいこでん

新・水滸伝

吉川 英治

「日本」講談社、1958(昭和33)年1月号~1961(昭和36)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 684,899 字 · 1374 页

青空文庫

「いや、すべてこの宋江の罪にして、ご帰還なされたらよいでしょう」

「すでに、立帰る船もない」

「渭河のお船には、李俊、張順の二名に、手下三百名をつけて、お帰りの日まで、守らせておいてありますから」

「なんのそれよりは天子から霊山へご献納の吊燈籠だ。そのほか、貴重な香木やら数々なお供え物など。ああ、どうしようもない」

「それとて、お案じにはおよびません。きっと、華岳の霊廟へ、つつがなくお納めします」

「いッそ、それならわしを放してくれい。儂が霊山へまいらぬことには、どうにもならん」

「いや元々、あなたは天子のご代参。ですからまた、あなたのご代参はわれわれがする。――そのため、大臣のご衣裳、お乗物、供奉員の式服。すべてをそっくり拝借申す」

「いったい、また、なんでそんな道化た芝居を演じねばならんのか」

「いずれ後ではお分りになりまする。たしかにこれは一場の劇。都へのよい土産ばなしになるでしょう」

山寨の一窟で、宋江が彼を揶揄したり慰めたりしているうちに、一方では呉用のさしずで、一切の準備は進められていたのである。

馬子にも衣裳とはよくいうこと。ヒゲを剃るやら、金剣銀帯を佩いてみるやら、宮廷武官の紫袗と称する短か羽織を引っかけるなど、さながら楽屋裏の忙しさと異ならない。